NANFULI.電書部 課外授業2
1月 25
NANFULI.電書部の課外授業「キンドルベストセラー著者に聞く、 『Gene Mapper』のつくりかた」が新宿で開催されました。今回の講師は藤井太洋さん、自ら「出版、編集者、著者」という役割を担ったこの作品は、Amazon Kindle StoreやKoboで上位にランキングし、業界の話題をさらいました。その藤井さんにGene Mapperの執筆・製造工程や、販売方法、さらに電子書籍ならではの読者のリテラシー問題や日本以外での販売についてお聞きしました。
◎Gene Mapperの執筆スタイルについて
執筆については、これは何度も報じられているところですが通勤中にiPhone、休憩時間にはMacというスタイルで執筆を進めたとのこと。当初使っていたiPhoneアプリ「iText Pad」では章立てができず、Dropboxの同期も手動のため2台同時の執筆が難しかったそうです。しかも、書き出しの形式がまさかの「S-JIS」であったとのことで使用をやめ、現在は「Notebooks」で執筆、Macではアウトラインライティングが可能で小説や論文の執筆にも便利なエディタソフト「Scrivener」を利用しているそうです。
ここで面白かったのが、アメリカにおける本の書き方の話。まず、Amazonの紹介文のようになんの本なのかを書かないと、出版エージェントとは契約できないそうです。契約が行われると執筆前に入金があって、先に費用がもらえるので執筆のための取材費などに充てられるそうです。
◎テキストの書き出しと校正
執筆後のテキストは、青空文庫フォーマットからRubyで作成した独自ツールでxhtmlに変換し、バリデータチェック後にEPUBで書き出しているそうです。EPUBはxhtml+CSSなのでこの様な方法が取れるとのこと。Macでのビューアーは「Murasaki」、縦書きの印刷もできるのは現在これのみとのこと。WebブラウザでのEPUB3対応状況についてもご説明いただきました。
印刷が必要な理由は、赤入れを「紙」で行うため。変更前の履歴が残されているためわかりやすく、これにまさるツールは無いためだそうです。
◎各ストアでの配信数と収益モデル
配信は自分のWebサイト(独自)、Kindle(KDP)、Kobo、iBookstoreで行われました。それぞれの数字はNDAの関係でモデル化している部分もありますが、各ストアで特徴的な傾向が見られたとのこと。独自サイトでのDrop Cart率はかなり高く見に来てもほとんどが買わなかったそうです。決済はGumloadでPayPal、支払いサイトは一番短いそうです。
Kindle(KDP)の売り上げは一番多く、レビューは24〜48時間とのこと。Koboもそれなりにですが…7月入金予定のものが未だに振り込まれない!(会場一同笑)。
iBookstoreはレビューに2週間かかり審査が厳しいですが、iTunes、AppStoreの実績があり、配信側、購入側ともに最高のプラットフォーム。入金も「円」で行われるそうです。レビュー時のスペルチェックは画像内も機械的ではあるが行われているというのは初耳でした(常識ですか?)。一度リジェクトされたことがあるが、それは他の販売サイト(自サイト)に直接のリンクがあったため。
ここまでの合計は一般的な紙のハードカバー本として考えると8000部の印税に相当します、平均的な返本率を考えれば1万数千部となり文芸ジャンルのSF小説としてはかなりの規模となりますが、この数字を多いと見るか少ないと見るかは難しいところです…。
◎プロモーションについて
プロモーションは公式サイト、FB/Twitter、GoogleAdwords/Yahoo!リスティングへの出稿が行われました。PC向けのクリック単価広告では、単発の書籍の場合広告費の方が高くつくなどの問題があるそうです。それぞれの仕組みの解説と特徴、効果など興味ぶかい話が行われました。
◎海外展開について
Gene Mapperは現在、英語版と中国語版(主に台湾)が出ています。翻訳について、英語は小説ではネイティブクオリティが必要だが、英米では単価が非常に高く英語圏でありながら単価の安いアイルランドに翻訳を依頼したそうです。日本で盛んな実用書分野では、最初からフィリピンなど単価の安いところに依頼するという設計もあり得るかもしれないとのことです。
テーマの選択については「モラトリアムな若者」「老害」のような日本社会に特有の背景で書くと、国内での読者の共感は得られやすいが海外ではまったく通用しない可能性が高いと思われるとのことです。電子版では暴力表現、性的表現が厳しいので最初から除外したということです。
海外出版で先に経費が支払われるとのことだが、書けなかった場合は?
→納期遅れがあると減額(費用の返還)が行われ、これが続けば最後は無くなってしまいます。もし書けなかった場合、経費以上のペナルティーは無いですがプロモーションが始まっていたりすると何かしら請求されるリスクは発生するでしょう。
女性向けの電子書籍が少ないようだが、どうなのか。
→今後は増えて行くんじゃないかと考えています。Gene Mapperは男性、女性向けといった事は意識せずに書きました。ですが、一般書籍よりも登場人物の年齢は高めで、一般書籍とはちがったアプローチである事は確かです。
小説そのものはクリエイティブコモンズBYで2次利用可能とのことですが
→漫画化、アニメ化などそういった方向を期待しています。すでに台湾では漫画化の話があるとも聞いています。出来ればいままでの様な「先にドラマ化して、大根役者のイメージ」がつくよりも、最初から既に多様な作品が生まれていている状態が望ましいです。いくつものアニメやドラマが生まれ、固定のイメージがつかないようにしたいわけです。従って、海外でこういった動きが多いほうが嬉しく、日本でなにかができるときには「海外では多様な作品が…」となっていたいですね。
講師:藤井太洋氏プロフィール
国際基督教大学を中途退学後、舞台美術やDTP制作、展示グラフィックディレクターなどを経て、現在はソフトウェア開発・販売を主に行う企業に勤務。処女作『Gene Mapper』を公開後、現在は次回作『Orbital Cloud』の執筆を開始。
GeneMapper Offical Web Site
http://genemapper.info/
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